Time Passenger     〜時空を超えた愛〜












いくら自分を奮い立たせようとしても、脚に力が入らなかった。
AKUMA相手ならいくらでも奮起できると言うのに、
こと恋愛事に関しては未だ免疫のない情けない自分。


アレンの頭からは、さっきまで壁越しに聞こえていた、
あの吐息が耳について離れなかった。



「……神田……」



自分をその腕に抱く時、神田は日頃決して見せない優しい顔をする。
任務の後はやや強引な関係を迫る時もあったが、
それでも行為の端々に、自分に対する想いが感じられて、
とても幸せな一時だった……。


おそらく今まで生きてきた中で、
あそこまで安心して誰かに身体を預けた事などないだろう。


神田の声や肌の温もりを思い出すだけで、
アレンの身体の中に埋もれていたはずの熱が顔を出す。
 

両腕で自分の身体を抱くようにして諌めようとするが、それは到底かなわなかった。
徐々に全身が疼きを覚えだし、下半身が否応なしに反応を示す。
 


――― 情けないな……。



今、別の場所で他の人を抱いている恋人を思い出し、
それにすら欲情してしまう自分。
もう既に身体自体が神田の全てを覚えていて、
その呪縛からは逃れられそうにない。



「……っっ……はぁ……」



アレンは己の欲求に打ち勝つ事が出来ず、
ついには下半身に向かって自分の手を伸す。
 

するとその時、暗がりの中から聞き覚えのある声がした。



「人が心配して来て見りゃあ、何のことはねぇな……」
「かっ、かんだ?」



徐々に月明かりで顕わになってきた姿は、
つい今まで自分が思い描いていた相手だった。



「……あのっ……これはっ…!」
「別に構わねぇ。どうせ旅先の安宿だからな…こっちの声が漏れてたんだろ。
 だとしたら、俺たちにも責任の一端はあるわけだしな。
 別にお前にこんな思いをさせようと思ったわけじゃねぇんだが……」
「そ、それはっ……」
「俺は先に宿へ帰ってる。済んだらさっさと戻って来い」



思いがけない相手の登場に驚いたアレンだったが、
その反面、不思議と嬉しさがこみ上げてくる。



「神田……もしかして、ボクのこと心配して来てくれました?」



アレンの言っていることもまんざら外れてはいなかった。
神田はアレンのことを鼻もちならない新米だと思う反面、
何故か気になって仕方なかったからだ。















神田は今宵、可愛い恋人と同じ部屋にいながら彼を抱く気になれなかった。


彼にひとしきりねだられて身体を重ねてみたものの、
いつものように熱くなれない。
それは隣の部屋にいる、恋人に良く似た少年のことが、
心の端に引っかかっていたからに他ならなかった。
 

神田は恋人をなだめて寝かしつけたところで、
隣の部屋からアレンが出て行く気配を感じ取って後を追って来たのだっだ。



「見張りのファインダーが、お前が泣きながら飛び出してったっていうからな。
 とりあえず来ただけだ……」
 


つっけんどんな言い方ではあるが、それすら神田の見えない優しさを感じさせる。
アレンは、思わずその手に縋り付きたくなるのを唇を噛みしめてぐっと堪えた。
目の前にいる彼は、確かに自分の好きな神田だ。
だが今の彼にとって、自分はついこの間会ったばかりの、
鼻もちならない新米エクソシストにすぎないのだから。



──それでも、神田が愛しい。



「神田……お願いがあります。
 こんなこと言ったら怒るかもしれませんが、それを覚悟で言わせてください」
「何だ?」
「……僕を……抱いてくれませんか?」



瞬間、神田の瞳が驚きで見開かれるのが判った。
すぐにでもふざけるなと怒声が返ってくるだろうと思っていたのに、
それは別の形で返ってきた。



「……お前は……一体、誰なんだ?」



徐々に二人の距離が縮まり、神田の腕がアレンの方へ伸びる。
しなやかなその指先が、涙で濡れた頬にそっと触れた。



「僕です……アレン…です……。
 覚えてくれてないのも仕方ないんだけど……。
 ボクは確かに、キミが愛してくれた……アレンなんです」



涙でぐちゃぐちゃになった顔で、無理に笑顔を作ってみせる。
そんな様子が、とても嘘をついているとは思えなかった。



「お前を見た時から気になっていた。
 まるで忘れてしまった大切なものを見ているような……。
 何て言えばいいのか良くわからねぇんだが……」



アレンは神田の言葉が嬉しくて、たまらなかった。
自分が捻じ曲げてしまった空間に存在している恋人が、
こうして何かを感じ取ってくれる。
そう思うだけで、二人の絆の深さを感じずにはいられない。
話しても信じてもらえないであろう事実を、アレンはゆっくりと話し出した。



「きっと、信じてもらえないと思うけど、
 僕は別の時空からやって来ました。
 仲間のイノセンスの力で、時空を越えて来たんです。
 本当は此処にいるべき存在じゃない。
 僕はあろうことか自分の過去を変えてしまいました。
 今朝目が覚めたら、以前とは似ても似つかない自分がここにいて……」



自嘲気味な笑みを浮かべると、目の前の神田を見つめ、
その頬に今度は自分から触れてみる。



「それに……過去を変える前、僕はキミの恋人だったんですよ? 
 笑っちゃうでしょ?」
 


そう言った瞬間、アレンの瞳から再び止め処なく涙が溢れ出す。



「確かに……馬鹿げているとは思うが……
 お前がそういうなら、多分本当なんだろうな」
 


アレンが嘘をついているとは思えなかった。
神田自身が、彼を一目見たときから心の中にある種の疼きを覚え、
今目の前にいる彼が愛しく思えてしまうのも事実だったからだ。
 

神田はだまってアレンを抱きしめた。
 

アレンの柔らかな髪が神田の頬に当たる。
初めてであるはずのその感触さえ、
覚えがあると思ってしまうのだからどうしようもない。
 

アレンは瞳を閉じて、懐かしいその香りに酔いしれた。
懐かしい神田の香り。
好きで好きでたまらない神田の腕の感触。
 

次の瞬間、どちらともなく互いの唇を求めて顔を近づける。
甘い吐息が鼻をくすぐり、たまらず唇を緩めると、
すかさず神田の舌がアレンの口内へと入り込んだ。



「……んっ……ふうっ……」



愛しさのあまり気持ちがあふれ出して、どうにかなってしまいそうだ。
幾度となく角度を変え、互いの唇を貪り合う。
アレンはその熱い口付けに、全てを忘れてしまいそうになっていた。



「……確かに……俺はお前を……この唇を知っている」
 


唾液で濡れて光るアレンの唇を、
親指でなぞるように拭いながら神田は呟く。



「ありがとう……神田……」
 


アレンは熱の篭った瞳で、黙ってその瞳を見つめ返した。
 

今、ここでこのまま腕を放さなければ、
神田はおそらく自分を抱いてくれるだろう。
だが、本当にそれでいいのだろうか。


ほんの僅かな葛藤も、今のアレンには無意味だった。
アレンは自ら神田の腕を解く事が出来ず、
どんどん熱を帯びてくる己の欲求に打ち勝つ事が出来なかった。
きつく着込んだ神田の団服をすこしずつ緩めて脱がせると、
薄いシャツ越しにその胸に触れる。



「キミのここに、鮮やかな梵字が刻まれていることも知ってます。
 『オン』っていう、特別な意味を持った文字なんですよね?」
 


小首をかしげながらアレンが呟く。
その台詞に驚き、神田は目を大きく見開いた。



「なんでそんなことまで知っている……」



ふふと小さく笑いながら、アレンはシャツのボタンをゆっくりと外しだす。



「キミが教えてくれたんです……確かサンスクリット語とかいう
 舌を噛みそうな、難しい言葉でしたよね」
 


するとシャツを肌蹴たその胸元から、
今話している梵時がくっきりと姿を現した。
その文字を人差し指で軽くなぞると、アレンは愛しげにキスを落とす。



「僕は、キミの胸にあるこの模様が好きでした。
 キミは不思議と嫌がるんですけどね、
 いつもこの文字の上にこうやって耳をあてがって寝るのが、
 僕だけに与えられた特権のような気がして、凄く嬉しかったんです……」



神田の心音を聞きながら眠りに付くのが好きだった。
口が悪くて、時に暴力的な行為も強制されたりしたが、
それでも最後はアレンを胸に抱いて寝てくれた。
それだけでアレンはいつも満たされた気持ちになれたのだ。
 

アレンのそんな想いが神田にも伝わったのか、
さっきまでの棘のある表情は既に何処かへ消えうせていて、
逆に恋人を見るかのような優しい瞳に変わっている。



「不思議だな……お前にそういわれると、
 なんだか本当にそうだったような気がしてくる」



その長くたおやかな指でアレンの髪を掻き揚げると、
神田は額の左側にゆっくりと唇を落とす。



「お前だって、ここに何か大きな傷があったはずだろう?
 ロストの額にあるのと、良く似たモンが……」
「……え……?」



確かにそうだった。
神田が唇を押し付けたその場所には、呪われたペンタクルがあったはず。



「ど、どうして……それを?」



この時空に存在しているロストという少年は、
以前の自分をまるで鏡に映しているように、醜いペンタクルが額の右側に在る。
神田はどうしてそれが自分の左側の額にあったと判ったのか。



「昔のお前の姿が、今、俺の脳裏に浮かんだ……」



その愛しい少年は、自分が今恋人とする少年とうりふたつだった。
それが本当かどうかは定かではなかったが、
神田には不思議と目の前にいるアレンが、
その少年と同じ人間であると感じることが出来た。



「神田……ずっと前から、いいえ、
 これからもずっとキミのことが……好きです……」



切なげなアレンの瞳が神田の心臓を射抜く。



「だから……お願いです……今夜だけでいいから……」



アレンは戸惑いながらも、ズボンの上から神田に触れる。
それは既にもう勢いを増していて、
神田が明らかに自分に反応してくれていることを示していた。
 


――― 嬉しい……。



諦めていたはずの恋人が、今も変わらず自分に欲情してくれている。
それだけでアレンは、嬉しさのあまりに身体を震わせた。
ゆっくりとファスナーを下ろし、そこから顔を覗かせた彼自身を己の口元に含む。



「……うっ……」



堪らないと言わんばかりに、神田は小さなうめき声を漏らしたが、
アレンは器用にその猛りを舐め上げていった。
 

唇と舌を使い、裏側の感じる部分を刺激すると、
それはアレンの口の中でまた一回り大きさを増徴させた。
 


――― ああ、やっぱり僕の好きな神田だ……。



愛しさを込め、口内の分身に奉仕する。
限界が近いのか、神田は苦しそうにアレンの頭を掴み、その髪を掻き混ぜた。
その艶っぽい表情だけで、アレンも既に自分の下着の中を湿らせていた。



「……カンダ……もう……いいですか?」



荒い息遣いのまま、神田がコクリと頷く。
アレンはおもむろに自分の下半身をむき出しにすると、
いつも彼を受け入れていた場所に、神田自身をあてがった。



「……つっ……ふうっ……」



 自らの体重をその上に預け、身体の中にそれを受け入れる。



「……くっ……」



実質上、この身体になってからする同性との行為は初めてだった。
いくら感じているとはいえ、いきなりの行為に身体は悲鳴をあげる。
久し振りに受け入れた神田自身はとても大きく猛っていて、
その容量の多さに圧倒された。


神田もアレンの内腔の狭さに、苦しそうな吐息を漏らしていた。



「……おまえはっ……いつもこんなに……積極的なのか?」



息も絶え絶えに呟く神田に、アレンは顔を歪めながら答えた。



「……な……わけ……ないじゃ……ないですかっ……」



苦しそうな顔のアレンが、日頃にない無理をしているのだと理解すると、
神田はその健気さが愛しくてたまらなくなる。



「力……抜いてろ」



そう一言いうと、自分の上にまたがるアレンの身体を思い切り抱きしめる。
不意をつかれてアレンが驚いた隙に、神田は腰を浮かせて
己をその身体の中へと突き進める。



「……あっ……ああっ!」



二人の繋がりがより一層深くなり、たまらずアレンは大きな声を漏らした。
きつい締め付けで神田も思わず顔をしかめたが、
アレンが辛そうな表情を浮かべたので、その背中を優しく何度も撫でた。



「…っつ、うぅっ…は、あっ…!」
「……辛いか?」



背中に感じる手の温もりと神田の声が嬉しくて、アレンは思わず涙を零す。



「……だいじょうぶ……もう……動いても……へいきです……から……」



途切れ途切れに紡ぐ台詞を受けて、神田はゆっくりと動き出す。
その動きにあわせるように、アレンの吐息が切なく闇夜に響いた。


月夜の交わりは甘く激しい。
失くしてしまった時の欠片を取り戻すかのように、
二人は強く求め合った。


まるで互いの魂の繋がりを、手探りで確かめ合うように。
 
 
 

  
 
 




















《あとがき》


異なる時空で出会ったというのに、それでも神田を求めてしまう辺りがアレンたんらしいというか、
この二人の運命というかぁ〜〜〜(*^v^*)

まぁ、エッチ表現はぬるいんですが、とりあえず18禁部屋へ(;´∀`)
まだ、この後も数話後に18禁描写があります。
そっちのが少しエッチらしいエッチっす(゜∀゜*)ノ


つづきも楽しみにしていらして下さいね〜ヽ(*'0'*)ツ






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